石山 翔午、井上 智晶、室谷 雄作、谷本 早紀、中國 正寿
河川ごみ回収装置が、思いがけないものを捉えていました。
2026 年 6 月、香川県高松市を流れる詰田川で、河川ごみ回収装置の実証実験を行いました。7 日間で回収されたごみは、ペットボトルやポリ袋など 39.45 kg(湿重量)。しかし、装置が捉えたのは、こうした大きなごみだけではありませんでした。
回収物を確認すると、装置のポケットには、直径 5 mm 以下の小さなプラスチックも多く集まっていました。中でも目立ったのが、白色のカプセル状の粒子です。これは、肥料カプセルの肥料成分が溶け出した後に残る、カプセルの殻です。大きな河川ごみを回収するための実証実験で、これほど多くのマイクロプラスチック(MP)が見つかったことは想定外でした(MP の詳細については、科学コラム「一次、二次マイクロプラスチックとは?危険性
や対策について解説!」で紹介しています)。
今回は、河川で回収された肥料カプセルの量を調べるとともに、どこから、どのように流出するのか、農業においてどのような役割を持つのか、そして、どのような対策が考えられるのかを、既往研究とともに整理します。
1.河川で回収された数万個の肥料カプセル
回収装置を 7 日間設置した後、ポケット後方の 1.0 m × 0.6 m の範囲で、表層にあった直径 3 cm 以下の自然物とプラスチックの混合物をすべて回収しました。その結果、混合物の湿重量は 4.52 kg でした(図 1)。この混合物から 50 g を 1 点取り分け、肥料カプセルを数えたところ、384 個ありました。50 g の試料と混合物全体の組成が同じと仮定して単純換算すると、推定個数は次のようになります。
384 個 ×(4.52 kg ÷ 0.05 kg)≈ 3.5 万個
これは 50 g の試料から求めた推定値であり、実際に約 3.5 万個すべてを数えたわけではありませんが、それでも、河川ごみ回収装置が多数の肥料カプセルを捉えていたことが分かりました。

混合物 4.52 kg から 50 g を取り分け、384 個を計数した。
2.肥料カプセルは、農業の省力化を支える技術
回収装置に大量に捕捉されていた肥料カプセル。これは、いったい何者なのでしょうか。
肥料カプセルは、被覆肥料とも呼ばれ、水田や畑などの圃場(ほじょう)で使用されます。尿素のような肥料成分をポリエチレンなどのプラスチックを含む膜で覆い、成分が溶け出す時期や速度を調整した粒状の肥料です。被膜の内側に入った水に肥料成分が溶け、その成分が被膜を通って少しずつ外へ出るしくみです(図 2)。
作物の生育に合わせて肥料成分を供給できるため、追肥作業を減らし、農作業を省力化できます。また、必要な時期に肥料成分を供給することで、肥料利用効率の向上や、環境中への窒素流出の抑制にもつながります。
水稲を対象とした圃場試験では、通常の尿素と比較して、被覆尿素によって窒素の溶脱が抑えられ、窒素利用効率が向上するとともに、農作物の収量が維持または向上したことが報告されています[1]。別の 2 年間の圃場試験でも、被覆尿素の使用により、アンモニアの揮散や表面流出による窒素損失が減少し、窒素利用効率が向上したことが報告されています[2]。このように、肥料カプセルは、農作業の負担を減らしながら、コメなどの安定生産を支えて
きた技術です。
一方、肥料成分が溶け出した後には、内部が空洞になった肥料カプセルが残ります。この肥料カプセルが水田から流出すると、MP として水路や河川を移動し、海へ到達する可能性があります。また、肥料カプセルは、海岸でも確認されています。実際に、石川県の海岸で行われた 1 年間の定点調査では、採取された 1~5 mm の MP のうち、肥料カプセルが平均68%、灌漑期には約 90%を占めたことが報告されています[3]。
ここで重要なのは、この問題が「プラスチックを使うべきではない」という単純な話ではないことです。農業の生産性や省力化を維持しながら、MP の流出をどのように抑えるか。両立すべき課題として考える必要があります。では、肥料カプセルは、いつ、どのように水田から流出するのでしょうか。

3.流出しやすいのは、代かきから田植えまで
肥料成分が溶け出した後の肥料カプセルは、内部が空洞で水に浮きやすいという特徴があります。田植え前に、水を張った水田の土をかき混ぜて平らにならす「代かき」を行うと、土の中に残っていた肥料カプセルが水面へ浮かび上がります(図 3)。その後、田植え前に水を抜く「落水」という作業や、降雨によって水があふれる「越流」、風による排水口側への移動などによって、水田から水路や河川へ流出すると考えられています。実際に、代かきから田植えまでの期間に肥料カプセルの流出が集中することは、複数の調査で共通して示されています。
2025 年に公表された水田 38 地点の調査では、灌漑期間中に流出した肥料カプセルの 61~100%が、代かきから田植えまでの期間に確認されました[4]。別の研究では、6 圃場を対象に 2 年間の調査が行われ、年間を通して観測した 2 圃場では、年間流出量の 90%以上が、入水から田植えまでの期間に発生していました[5]。また、3 か所の水田を調査した研究では、灌漑期間中に流出した肥料カプセルの約 50%が代かき時に流出していました。代かきのほか、水位上昇による越流や水田からの落水も、主な流出要因として示されています[6]。
水田から流出した肥料カプセルは、水路を通じて河川へ移動します。石川県の農業地域を流れる小河川では、肥料カプセルの濃度が 4 月下旬から 6 月にかけて増加しました。河川で濃度が上昇する時期は、水田からの流出時期と重なっており、流出した粒子が比較的短時間で海へ到達する可能性も示されています[7]。
今回の河川ごみ回収実験は 6 月に実施しており、従来の研究で報告された河川中の肥料カプセル濃度が高まった時期と重なります。したがって、回収装置で捕捉された肥料カプセルも、水田から水路や河川を通じて移動してきた可能性があります。

4.圃場(ほじょう)で止める対策と代替技術
対策の基本は、肥料カプセルを水田から流出させないことです。既往研究では、水管理や落水方法などの違いによって、肥料カプセルの流出量が大きく変化することが示され[4-6]、次のような流出防止策が報告されています[8]。
・入水量を必要最小限にする
・浅い水位で代かきを行う
・田植え前の強制落水を避ける
・水尻や排水口に捕集ネットを設置する
流出が代かきから田植えまでの時期に集中するのであれば、対策を行う時期も絞ることができます。特に灌漑初期の水管理や排水口での捕集は、既存の肥料を使いながら流出を抑える方法として重要です。
もう一つの対策が、肥料を包む「被膜」の素材を見直すことです。従来の肥料カプセルには、プラスチックであるポリエチレン(PE)やポリウレタン(PU)などが使われてきました(図 4)。PE は、炭素原子が鎖状につながった、水になじみにくいプラスチックです。PUは、原料の組み合わせを変えることで、膜が水を吸う程度や、肥料成分が溶け出す速さを調整できます。このように、被膜は単なる肥料の入れ物ではなく、分子の構造を利用して肥料の効き方を調整する材料です[3, 10]。
ただし、従来の肥料カプセルに使われる被膜には、自然環境中では分解されにくく、肥料成分が溶け出した後も長期間残るものがあります。水田では、過去に使用された肥料カプセルが土壌中に数年間残り、その後流出することが確認されています[6]。そこで、肥料成分の放出を調整する働きを保ちながら、使用後には分解が進む被膜の開発が進められています。
その候補の一つが、生分解性プラスチックであるポリ乳酸(PLA)やポリ(3-ヒドロキシ酪酸)(PHB)などです。いずれも、水や酵素の作用による分子の鎖の切断が、プラスチックの分解に関わります。肥料への応用では、PLA と化学的に加工したリグニンを組み合わせた膜で、尿素が溶け出す速さを抑えた研究や、PHB で被覆した肥料を用いたトウモロコシの鉢を使った栽培試験が報告されています[11, 12]。
ただし、生分解性プラスチックであっても、水田に入ればすぐに分解するとは限りません。例えば、PLA を土壌や堆肥に埋めた研究では、分解の進み方が温度や微生物の存在によって大きく異なりました。実際の被覆材では、素材の配合や膜の厚さに加え、使用する土壌や温度条件での分解性を確かめる必要があります[13]。
無機材料である硫黄を使う方法もあります。肥料を硫黄で覆ったもので、既に実用化されています。硫黄は被膜として働くとともに、作物に必要な栄養元素でもあります。水稲を対象とした 2 年間の圃場試験では、通常の尿素と比較して、硫黄被覆尿素によって収量が向上したことが報告されています[8, 9]。
植物由来の素材であるリグニンやセルロースも、被覆材の候補です。木材に含まれるリグニンは水になじみにくい高分子であり、水を通しにくい被膜形成に利用されています。セルロースはブドウ糖が長い鎖状につながった物質で、分子の中に水となじみやすい部分を持ちます。この部分を化学的に変えると、水とのなじみやすさを調整できます。実際に、こうして加工したセルロースで尿素を覆い、肥料成分が溶け出す速さを抑えた研究が報告されています。天然素材も、その分子構造に手を加えることで、肥料成分が溶け出す速さを調整する材料になり得ます[11, 14]。
代替被覆材に求められるのは、作物が育つ間は肥料成分の放出を調整し、その役割を終えた後には環境中に残りにくくなることです。この両立に加え、コストや既存の農作業との適合性も確かめる必要があります。地域、作物、栽培方法に合わせて、水管理や捕集と、被膜素材の工夫を組み合わせることが重要です。

構造式は各素材の代表骨格または部分構造を示し、実際の被覆材料には誘導体・複合材を含む。
●は、市販の肥料カプセルへの使用実績を確認した被膜素材を示す。
生分解性は素材の組成や環境条件によって異なる。
5.大きなごみとマイクロプラスチック(MP)を河川で回収するために
圃場での流出防止や代替技術への転換は、最も重要な対策です。一方、すでに水路や河川へ流出した肥料カプセルについては、海へ到達する前に回収するという考え方もあります。
今回使用した装置は、ペットボトルやポリ袋など、比較的大きな河川ごみを回収するために開発したものです。大きなプラスチックごみを河川で回収することは、海への流出だけでなく、細片化による二次 MP の発生を防ぐことにもつながります。
一方、肥料カプセルは、水田から流出した時点ですでに小さな一次 MP です。そのため、粒子の大きさや浮遊特性に合わせた回収方法が必要になります。
今回、MP 専用ではない装置のポケット内に、約 3.5 万個と推定される肥料カプセルが集まっていました。細かな粒子が、装置内に堆積した植物片などの自然物の層に絡まり、偶発的に捕集された可能性があります。この結果から、河川回収装置における新たな開発課題が見えてきました。
今後は、既存の河川ごみ回収装置に細目ネットや表層の粒子を集める機構を組み合わせる方法と、肥料カプセルなどの小さな粒子の回収に特化した装置を開発する方法が考えられます。さらに、MP を検出・計数するモニタリング技術を組み合わせれば、装置の設置場所や運用時期の検討、回収性能の評価にも活用できます。網による捕捉だけでなく、水流や気泡、表面張力を利用して粒子を集める技術も研究されています。詳しくは、科学コラム「マイクロプラスチック回収技術の最前線」で紹介しています。
6.おわりに
肥料カプセルは農業を支える技術である一方、使用後の被膜殻が川や海へ流出するという課題もあります。大切なのは、農業と環境保全のどちらかを選ぶことではなく、圃場での流出防止、代替材料や施肥技術の開発、水路や河川での回収などの複数の対策を組合せ、いずれも両立する解決策を提案することだと考えています。
川で見つかった小さなカプセルは、農地と海が水の流れでつながっていることを示しています。今回の発見を出発点に、肥料カプセルを含む MP を河川で回収する技術の開発につなげていきます。
参考文献
[1] Zhang, S.; Shen, T.; Yang, Y.; Li, Y. C.; Wan, Y.; Zhang, M.; Tang, Y.; Allen, S. C. Controlled-Release Urea Reduced Nitrogen Leaching and Improved Nitrogen Use Efficiency and Yield of Direct-Seeded Rice. J. Environ. Manage. 2018, 220, 191–197. DOI: 10.1016/j.jenvman.2018.05.010
[2] Li, P.; Lu, J.; Hou, W.; Pan, Y.; Wang, Y.; Khan, M. R.; Ren, T.; Cong, R.; Li, X. Reducing Nitrogen Losses through Ammonia Volatilization and Surface Runoff to Improve Apparent Nitrogen Recovery of Double Cropping of Late Rice Using Controlled Release Urea. Environ. Sci. Pollut. Res. 2017, 24, 11722–11733. DOI: 10.1007/s11356-017-8825-8
[3] Katsumi, N.; Kusube, T.; Nagao, S.; Okochi, H. The Role of Coated Fertilizer Used in Paddy Fields as a Source of Microplastics in the Marine Environment. Mar. Pollut. Bull. 2020, 161, 111727. DOI:10.1016/j.marpolbul.2020.111727
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[5] 須戸 幹; 岩間 憲治. 水田圃場からの被覆性肥料カプセルの流出量と流出特性. 水環境学会誌 2025, 48, 135–142. DOI: 10.2965/jswe.48.135
[6] Katsumi, N.; Kusube, T.; Nagao, S.; Okochi, H. The Input–Output Balance of Microplastics Derived from Coated Fertilizer in Paddy Fields and the Timing of Their Discharge during the Irrigation Season. Chemosphere 2021, 279, 130574. DOI: 10.1016/j.chemosphere.2021.130574
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[11] Li, J.; Wang, M.; She, D.; Zhao, Y. Structural Functionalization of Industrial Softwood Kraft Lignin for Simple Dip-Coating of Urea as Highly Efficient Nitrogen Fertilizer. Ind. Crops Prod. 2017, 109, 255–265. DOI: 10.1016/j.indcrop.2017.08.011
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