河川ごみ回収の最前線 ― 私たちが開発した装置とその可能性について

河川ごみを回収することの重要性

私たちの生活と切り離せない「海」は、今や深刻なごみ問題に直面しています。特にプラスチックごみは、海洋生態系に甚大な影響を与えており、その多くが分解されずに海を漂い続けています。近年、海洋ごみの発生源として注目されているのが「河川」です。実際、海洋プラスチックごみの 80~90%は陸上由来であり、その多くが河川を通じて海に流出していると報告されています[1]。さらに、The Ocean Cleanupの報告によれば、都市部の小規模~中規模河川が世界の河川由来プラスチック流出量の約80%を占めることが明らかになりました[2]。このことから、海洋プラスチック問題を根本的に解決するには、まず「都市部の河川」での対策が最も効果的であると考えられます。河川は、内陸で発生したごみが海へと至る“通り道”です。この“入口”を押えることで、より効率的かつコストを抑えた海洋ごみの流出防止が可能になります。

そこで私たちは、”河川で発生・流入するごみをいかに効果的に回収できるか”をテーマに、独自の回収装置を開発しました。本コラムでは、その装置の仕組みと、実際に都市河川で行った実証実験についてご紹介します。

回収装置について解説

私たちが開発した回収装置の名称は「kawasemi 001」です。カワセミは渓流に生息する美しく青い鳥で、「渓流の宝石」と呼ばれており、水面上で空中停止をしながら水中に飛び込み獲物を捕獲します。この装置の外観は当団体のロゴで使用している青を取り入れており、自然の力を調和しながら、ごみを効率的かつ確実に捕獲するための設計が施されています。本装置が未来の海洋ごみゼロ世界を目指す、”希望を運ぶ青い鳥”となりたいという願いを込め、この名前に決定しました。

(1) 回収装置仕様 (kawasemi 001)

上流から流れてくるごみを、ウイングでせき止め、回収ポケットまで誘導し、回収ポケットにて回収。再流出を防止する構造。

サイズ横幅15 m
回収ポケット 縦2.6 m × 横 1.0 m
対応水位水深0 cm〜50 cm
回収方法V字型ガイド + 回収ポケット

(2) 全体像

図1. 回収装置.

 (3) 設置作業の様子

特徴的なのは、水流を活かしてごみを一点に誘導する「V字型ガイド設計」です。また、水生生物への影響を最小限に抑えるため、V字型ガイドでは浮遊物を効率よく補足・誘導し[3]、それ以外は川の流れを利用して、逃がすことができる構造になっており、河川環境に配慮した設計を施しています。

回収活動について

香川県内を流れる高松市の詰田川にて、多くの企業から協賛を頂き、2025年4月12日(土)~4月16日(水)まで5日間の回収実験を実施しました。

4月12日(土)午前、河川に回収装置を設置し、1日毎に装置の中央部にある回収ポケットからごみを回収しました。回収されたごみの乾燥前重量はそれぞれ、1日後(4月13日(日)):5.55 kg(wet)、2日後(4月14日(月)):1.05 kg(wet)、3日後(4月15日(火)):6.65 kg(wet)、4日後(4月16日(水)):6.30 kg(wet)で、回収量の合計は19.55 kgでした。回収されたごみは、分別、洗浄及び乾燥後、外観の撮影及び重量測定を行い、再資源化可能なものとそうでないものを仕分けしました。

ごみを回収していて驚いたのは、ごみの多様性です。ペットボトル、レジ袋、発泡スチロール片などのごみに加え、想定外のごみとして、高松市のごみ袋(45 L)が丸ごと2袋回収されました。これは、河川付近のごみステーションから風で吹き飛ばされたものと考えられます。また、海洋ごみでは波や紫外線の影響を受け、破砕・劣化しているごみが多いのに対し、河川ごみはトレーやペットボトル等の外観が比較的きれいであり、原型も保たれていました。プラスチックごみはサイズの小さなマイクロプラスチックになると回収が困難になるため、河川などで分解される前に回収する重要性がわかりました。このように、得られたごみを分析することでその地域における問題点・課題が洗い出され、気づきと学びの場になりました。

(1) 回収ポケット

図2. 河川ごみ回収時の様子

(2)回収ごみの重量測定

まとめ

 私たちが開発したkawasemi 001は、まだ試験段階にある小さな装置かもしれません。それでも、設置からわずか5日間で19.55 kgの河川ごみを回収することができ、日々の活動の積み重ねによって、確実にごみの流出量を減らし、地域の環境意識を高める手段となる可能性を示せました。この取り組みは、私たち一団体の力では限界があります。自治体、企業及び市民が一体となって支え合うことで持続可能な未来を築くことができると我々は考えています。

図3. クリアンオーシャンアンサンブルメンバー
図4. 協賛いただいた企業と共に

海洋プラスチック問題の“入り口”である河川に目を向け、海の豊かさを未来に手渡すために、私たちはこれからも現場に立ち続けます。「このような活動に関わってみたい」と、思った方は是非一度ご連絡ください。小さな一歩が、やがて大きなうねりとなって、世界の流れを変えることができれば素敵ですね !!

参考文献

[1] Gallo, F.; Fossi, C.; Weber, R.; Santillo, D.; Sousa, J.; Ingram, I.; Nadal, A.; Romano, D. Marine Litter Plastics and Microplastics and Their Toxic Chemicals Components: The Need for Urgent Preventive Measures. Environ. Sci. Eur. 2018, 30 (13). https://doi.org/10.1186/s12302-018-0139-z.

[2]  Meijer, L. J. J.; van Emmerik, T.; van der Ent, R.; Schmidt, C.; Lebreton, L. More than 1000 Rivers Account for 80% of Global Riverine Plastic Emissions into the Ocean. Sci. Adv. 2021, 7 (18), eabf5803.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aaz5803

[3] Sugianto, E.; Chen, J.-H. Hollow Wing Technique to Enhancing Conveyor Performance on Marine Debris Collection. Evergreen 2022, 9 (4), 1160–1167.
https://doi.org/10.5109/6625727.

著者:井上 智晶、室谷 雄作、石山 翔午、中國 正寿

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