石山 翔午、井上 智晶、谷本 早紀、中國 正寿
1. 「小さなプラスチック片」と、そのもとになる大きなプラスチックごみ
みなさんは、海岸でのごみ拾い、ビーチクリーンをしたことがありますか?ビーチクリーンの活動中に、ペットボトルや発泡スチロールの破片に混ざって、色とりどりの小さなプラスチック片を見つけることがあります。大きさ5 mm以下のこれらは「マイクロプラスチック(以下、MP)」と呼ばれます。
日本からは、年間約1.3万~3.1万トンのプラスチックが海へ流出していると推定され、このうちMPは約1.1万~2.4万トン/年と推計されています[1]。MPには、プラスチック製品の原料であるレジンペレットのように、もともと5 mm以下で製造される一次MPと、ペットボトルや発泡スチロールなどの大きなプラスチックごみが、紫外線や波の力で砕けて生じる二次MPの2種類があります。MPはその小ささから、一度海へ流出すると回収は困難です。
本コラムでは、すでに環境中にあるMPの回収技術(2章)と、MPが生まれる前段階での流出や細片化を抑えるクリーンオーシャンアンサンブルの実践的な対策(3章)、さらに、みなさんも実践できるMP調査の例を通じて、その実態を知ることの重要性(4章)を解説します。
2. MPを回収する革新的な技術
すでに環境中へ流出し、回収が難しいMPを捕捉するため、さまざまな研究が進んでいます。ここでは、物理学的な方法、化学反応を利用した方法および機能性材料による方法の三つの観点から、計6種類の技術を紹介します。
2-1. MP回収技術1:物理学的な方法
①「水の橋」で吸い寄せてMPを連続回収:水架橋ラチェット機構
2025年に韓国科学技術研究院(KIST)が報告した研究では、毛細管現象を利用して浮遊するMPを連続回収する「水架橋ラチェット」が提案されています[2]。
本技術では、海での風化や生物付着により表面が水になじみやすく変化したMPが、水面に形成される水の橋(水架橋)による毛細管力によってラチェット状の回収部に吸い寄せられ、保持されます(図1a)。さらに、ドラムの回転に伴って水架橋の形成と切断が繰り返されることで、捕捉とリリースが連続的に進む設計が示されています。そのため、網やフィルターのような回収法で問題となりやすい目詰まりを回避し得るアプローチとして位置づけられます。自然環境で起こる表面状態の変化を利用するという点で、興味深い技術です。
② 泡のカーテンでMPを誘導し回収:バブルバリア
河川から海への流出を抑制する手法として、バブルバリアが研究および実装されています。これは水底から空気を放出して「泡のカーテン」を形成し、泡が生む水の流れによってごみを水面付近へ集め、岸側へ誘導して回収する技術です(図1b)。従来は、漂流ごみ対策として導入されている技術ですが、近年はその原理を応用し、MPの誘導および回収を検討した研究も報告されています[3]。この性能を決める重要な指標の一つが、水の流れの勢いが重力に対してどの程度強いかを表す「フルード数」です。この値が大きいほど流れの影響が強くなり、小さいほど重力の影響が相対的に大きくなります。2022年に香港理工大学のZhangらは、実験水路で、フルード数、バリアの長さ、設置角度などの構成によって、低密度ポリエチレン(LDPE)やポリプロピレン(PP)といった粒子の回収効率が変動することを示しました[3]。水面に浮上した粒子は、「チェリオス効果」と呼ばれる表面張力の働きによって互いに集まり[4]、回収が容易になります。泡の壁を川に対して斜めに設置することで、魚などの生態系に影響を与えずに、漂流ごみを自然な流れで一箇所に誘導し、回収できる点が本技術の構造的な特徴です。

図1a

図1b
図1. MP回収技術1:物理学的な方法(模式図は各文献を参考に著者作成).a) 水架橋ラチェット機構.b) バブルバリア.
2-2. MP回収技術2:化学反応を利用した方法
③ 電気の力でMPを集めて除去:電気凝集(EC)
下水処理施設の排水などに含まれるMPの除去に、電気化学的なアプローチとして電気凝集法(Electrocoagulation)が検討されています。
ECは、電気分解によりアルミニウムイオン(Al³⁺)を水中に放出し、MPの表面電荷を中和します(図2a)。その結果、MP同士の電気的な反発が弱まり、ファンデルワールス力という物理的な引力によって互いに引き寄せられます。さらに、陰極で生じた水酸化物イオン(OH⁻)とAl³⁺が反応して生じた水酸化アルミニウムとともに、「フロック」と呼ばれる大きな塊を形成し、沈降により分離できます。
2018年にサレー大学のWilliam Perrenらの報告によれば、pH 3〜10の幅広い水質条件下で90%以上の除去率が維持され、特にpH 7.5の最適条件では99%以上の高い除去性能が確認されています[5]。また、電気分解に伴い発生する水素ガスの泡が、フロックを水面へ浮上させる「浮選」の効果もあり、沈降と浮上の両面から効率的な分離が可能です。目視が難しいMPを、海洋流出前の排水段階で抑制する有効な手法として位置づけられます。
④ 水中を自ら動いてMPを回収:自己分散型マイクロクリーナー
2025年、ノースカロライナ州立大学のHongらは、カニやエビの殻由来の天然高分子「キトサン」を用いた、自律分散型のマイクロクリーナーを報告しました[6]。
この技術では、植物油を内包させたキトサン繊維状粒子(SDC)を水面に投入します。すると、SDCから染み出した油により、周囲の水との表面張力差が生じ、その差によって粒子が自ら動いて広範囲へと拡散します(マランゴニ効果)。拡散したSDCは、水中に沈降する過程で、ヤモリの足の接着原理に似た階層的な繊維構造によりMPを効率的に捕捉し、大きな塊を形成します(図2b)。
最大の特徴は、この後の自律的な浮上プロセスです。SDC内部のマグネシウムが水と反応して水素の泡を発生させ、MPを抱え込んだまま水面へと浮上します。この反応の開始は、ゼラチンカプセルの溶解時間で制御されており、「沈降・捕捉」から「浮上」までの全工程を自動的に完結させる設計です。このように、自己分散型マイクロクリーナーは電力やインフラを必要としないため、従来の技術では回収が困難であった水域におけるMP除去アプローチとして期待されています。

図2a

図2b
図2. MP回収技術2:化学反応を利用した方法(模式図は各文献を参考に著者作成).a) 電気凝集法(EC).b) 自己分散型マイクロクリーナー.
2-3. MP回収技術3:機能性材料による方法
⑤ 植物由来の繊維でMPを回収:セルロースナノファイバー(CNF)ろ過材
2026年、南京林業大学のYuらにより、セルロースナノファイバー(CNF)をろ紙に担持した材料で、水中のMPを高効率に除去する研究が報告されました[7]。 この材料は、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)に対して93%以上の除去効率を示し、河川や湖の水でも高い性能を保ちました。回収の仕組みは、単に微細なフィルターで粒子をろ過するだけでなく、CNFとMPの間に生じる水素結合や静電相互作用などが働き、粒子をとらえやすくしていると考えられています(図3a)。植物由来のCNFを活用したMPの回収技術として、今後の展開が期待されます。
⑥ 超多孔質材料によるMPの回収:金属有機構造体(MOF)
2025年のノーベル化学賞は、金属イオンと有機分子を組み合わせて設計する「金属有機構造体(MOF)」の開発を主導した、北川 進 氏(京都大学)、リチャード・ロブソン 氏(メルボルン大学)、オマー・ヤギー 氏(カリフォルニア大学バークレー校)の3名に授与されました[8]。MOFは、サイコロ1個分(1cm³)でサッカー場に匹敵するほどの驚異的な表面積を持つ超多孔質材料であり、分子レベルでの精密な空間設計が可能です。
MP対策では、金属有機構造体(MOF)をスポンジのような多孔質材料に固定して使う研究も進んでいます。2020年に南京師範大学のChenらは、MOFをメラミンフォームに固定した材料を開発し、水中や海水に近い条件でも、さまざまな種類や濃度のMPを効率よく取り除けることを報告しました(図3b)[9]。特に、最も性能の高かった材料では、最大95.5%の除去効率を示し、繰り返し使っても高い性能を保ちました。このように、MOFをフォームに固定する方法は、水を通しやすく、回収もしやすいため、実用化が期待される材料設計の一つです。

図3a

図3b
図3. MP回収技術3:機能性材料による方法(模式図は各文献を参考に著者作成).a) セルロースナノファイバー(CNF)による回収.b) 金属有機構造体(MOF).
3. クリーンオーシャンアンサンブルの実践:海に出る前に「川・海岸」で止める
これまでに紹介した回収技術が、すでに環境中に拡散したMPへの対策であるのに対し、私たちが現場で行っているのは、「流出経路の上流でごみを遮断する予防的な対策」です。
3-1. 河川ごみ回収装置(kawasemiシリーズ)
海洋に一度流出したごみを回収するのは、対象面積が広大であるがゆえに困難を極めます。そこで、私たちは海に出る前の「川」で止めることに着目し、河川ごみ回収装置を開発し、河川段階でのごみ回収の有効性を実証しています(図4)。
瀬戸内海を対象とした推計でも、海域へのごみ流入のうち約67%が河川由来と見積もられており[10]、河川対策は有効なアプローチだと考えられます。実際、当団体による実証実験では、海上での回収が1日当たり0.045 kgにとどまったのに対し、河川での回収は1日平均4.7 kgに達し、河川での回収量は海上の約100倍でした。
海に広がる前の河川でごみを止めることは、回収量を増やすだけでなく、二次MPの発生源を上流で断つ即効性の高い対策であると考えられます。

図4
図4. 河川ごみ回収装置「kawasemi」の概要.
3-2. ビーチクリーンによる「二次MP」化の抑制
海岸は、プラスチックが微細化して二次MPとなる前に止められる最後の防衛線です。 海岸に漂着したプラスチックを、人の手で回収するビーチクリーンは、二次MPの発生源を減らす直接的な手段となります。
海岸に放置されたごみは、強い紫外線や波の影響を受け続けることで劣化し、破砕・細分化されます(図5)。ビーチクリーンは、この微細化が進む前の大きな状態で回収する、シンプルかつ有効な方法です。最先端のMP回収技術が未来の解決策だとすれば、私たちが現場で行っているビーチクリーンは、二次MPの発生源を減らす即効性の高い実践です。

図5
図5. 劣化した海洋ごみ.
4. 市民の記録で「回収の地図」を作る
最新の回収技術が重要な一方、「どこに、どれくらいのMPがあるのか」を私たち自身が知ることも欠かせません。つまり、最適な回収装置を設計し、限られたリソースを効果的に投入するためには、現場の正確なデータが必要です。その土台となるのが、市民参加型の調査である「市民科学(シチズン・サイエンス)」です。
100円ショップなどで揃う道具でも、採取・記録の手順を標準化すれば、再現性のあるデータを集めることができます(図6a)。実際に、筆者が愛知県ので行った調査では、1平方メートルあたり3万個(30,792個)を超えるMPが確認された地点もありました(図6b)。このような実態把握は、最新技術をどこに投入すべきかを判断するための「地図」になります。
さらに、NPO法人クリーンオーシャンアンサンブルが開発した海洋ごみMAP[11]のように、一人ひとりの記録を同じ形式で集めて可視化できれば、その情報はより実用的になり、対策の優先順位づけにも直結します。

図6a

図6b
図6. 市民科学による海のMPの把握.a) 100円ショップで揃う道具で行うMP調査.b) 回収したMP.
5. まとめ
MP対策は、すでに環境中に存在するMPを回収する技術だけでなく、大きなごみの微細化や海洋への流出を未然に防ぐ取組みに加え、MPの分布を把握するための調査も重要です。回収装置だけでは十分ではなく、ごみやMPが「どこに、どれだけ存在するのか」という現場データがあってはじめて、技術は効果的に活用できます。
目の前のごみ一つを拾う皆さんの活動と、最先端の科学は地続きです。一人ひとりの観察と記録、そして技術開発が「協奏(アンサンブル)」することで、現状をより正確に把握し、対策の精度を高めることができます。まずは身近な観察や記録から、科学の視点を取り入れた一歩を踏み出してみませんか。
参考文献
[1] 環境省. 令和6年度検討結果 日本の海洋プラスチックごみ流出量の推計; 2025. https://www.env.go.jp/content/000320690.pdf (2026年3月2日閲覧).
[2] Cho, S.; Park, S. J.; Lee, Y. J.; Lee, Y. J.; Lee, Y. A.; Kim, H.-Y.; Kim, S. J.; Chung, S.; Moon, M.-W. Capillary Skimming of Floating Microplastics via a Water-Bridged Ratchet. Adv. Sci. 2025, 12 (1), e2408623.
[3] Zhang, E.; Stocchino, A.; De Leo, A.; Fang, J. K.-H. Performance Assessment of Bubbles Barriers for Microplastic Remediation. Sci. Total Environ. 2022, 844, 157027.
[4] Vella, D.; Mahadevan, L. The “Cheerios Effect”. Am. J. Phys. 2005, 73 (9), 817–825.
[5] Perren, W.; Wojtasik, A.; Cai, Q. Removal of Microbeads from Wastewater Using Electrocoagulation. ACS Omega 2018, 3 (3), 3357–3364.
[6] Hong, H.; Bang, R. S.; Verster, L.; Velev, O. D. Designing of Self-Dispersing Soft Dendritic Microcleaners for Microplastics Capture and Recovery. Adv. Funct. Mater. 2025, 35 (34), 2423494.
[7] Yu, Y.; Chen, L.; Feng, Y.; Liu, C.; Wu, W.; Xiao, H.; Dai, H.; Yao, S.; Gao, Y.; Bian, H. Cellulose nanofibril-loaded filter paper for highly efficient removal of microplastics via multiscale capture mechanisms. J. Colloid Interface Sci. 2026, 706, 139574.
[8] Press release: Nobel Prize in Chemistry 2025. NobelPrize.org, 2025-10-08.
https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2025/press-release/ (2026年3月2日閲覧).
[9] Chen, Y.-J.; Chen, Y.; Miao, C.; Wang, Y.-R.; Gao, G.-K.; Yang, R.-X.; Zhu, H.-J.; Wang, J.-H.; Li, S.-L.; Lan, Y.-Q. Metal–organic Framework-Based Foams for Efficient Microplastics Removal. J. Mater. Chem. A 2020, 8, 14644–14652.
[10] Fujieda, S.; Hoshika, A.; Hashimoto, E.; Sasakura, S.; Shimizu, T.; Okumura, M. Standing stock and mass balance of marine litter in the Seto Inland Sea, Japan. Mar. Pollut. Bull. 2021, 172, 112923.
[11] Clean Ocean Ensemble. 海洋ごみMAP; Clean Ocean Ensemble.https://cleanoceanensemble.com/activity/marinedebris/map/(2026年3月2日閲覧).