谷本 早紀、石山 翔午、室谷 雄作、井上 智晶、江川 裕基、中國 正寿
なぜ海洋ごみ回収のために「気象」を調べるのか
ビーチクリーンを行っていて、こう思うことはありませんか?
「同じ海岸で、同じように拾っているのに、ある日は数袋、ある日は数十袋。なぜこんなに違うのだろう」
海洋ごみの問題は、「ごみを拾えばいい」というだけでは語れません。
どこに、どれだけのごみが集まるかは、日々刻々と変化しています。ビーチを歩いていて、「今日はやけにごみが多いな」「先週より少ないな」と感じた経験はありませんか?その違いには、実は気象条件が関わっている可能性があります。
それはなぜでしょうか?
ヒントは海洋ごみ回収の現場にありました。
私たちクリーンオーシャンアンサンブルは、香川県小豆島の多尾海岸(図1、2)で人の手によるビーチクリーンを実施してきました。活動を続ける中で、地元の漁師さんや私たちメンバーの間では、「東側からの風が吹くとごみが集まりやすい」「冬は西風が増える」といった経験則が語られるようになっていました。
では、海洋ごみと気象に関係があるという経験則は本当に正しいのか。もしそれを数字で示すことができれば、回収する場所や日時をあらかじめ最適化し、より少ない労力でより多くのごみを回収できるかもしれない。そんな思いから、私たちは気象データとごみの回収効率との関係を定量的に調べることにしました。


対象の海洋ごみの回収データと回収効率という指標
今回対象とする海洋ごみの回収データは、気象データの分析対象期間である2024年4月から2025年3月までの、実施回数計13回、累計回収量376 kgです。
今回の分析で使った指標は「回収効率 E(kg/人・h)」です。これは、回収したごみの総重量を参加人数と作業時間で割ったもので、1人が1時間に回収できたごみの重量を表します。このようにEは漂着ごみ量そのものではなく、現場条件を含んだ回収効率であるため、気象データと比較する際の取り扱いには注意が必要です。
なぜ総回収量(kg)ではなくこの指標を使うのか。それは、参加人数が変わると総回収量も大きく変わるため、「今回はたくさん拾えた」という評価が、ごみの多さではなく単に人数の多さを反映してしまうからです。そこで、1人・1時間あたりの回収量で比較できる回収効率Eを分析の軸に据えました※1。
小豆島の気象的な特徴
分析には、多尾海岸から最寄りの気象庁の観測地点である内海アメダスのデータを使いました[2]。内海アメダスは小豆島中央、多尾海岸からは約6.5 km離れた場所にあります。2020年から2025年にかけての1時間ごとの観測データを整理すると、小豆島の気象には次のような特徴があります。
風速については、5 m/s 以上の比較的強い風が発生する頻度は全体の6.3%と少なく、穏やかな日が大半を占めます。風向は西南西風と西風の頻度が最も高く、強風時もこの傾向は同様でした。気温は比較的温暖で極端な低温はほぼなく、降水量も少ない。これは「温暖少雨」という瀬戸内の気候の一般的な特徴とよく一致します。
気象データと回収効率の比較
ビーチクリーン実施日を含む直近の気象データ(2024年4月1日~2025年3月31日の10分ごとのデータ)を集計し、回収効率との関係を散布図で確認しました。今回は、経験的に数日以内の風に影響されると考え、月に一回のビーチクリーン実施日を含む前2日間と前7日間について分析しました。分析した説明変数と結果は以下のとおりです(表1)。

今回の結果では、風速・風向・降水量と回収効率の間には明確な相関は確認できませんでした [3]。最も決定係数が高かったのは気温(R2 = 0.176)でしたが、傾向としてやや低温の時期に回収効率が高いという方向性が見えるものの、気温そのものの影響とは考えにくく、説明力は十分ではありませんでした(図3)。

一方、分析期間中に最も回収効率が高かった2月15日のビーチクリーンでは、前2日間の最多風向が西南西風でした。この日は風速が中程度だったにもかかわらず高い回収効率を記録しており、風が単純な強弱だけでなく、風向や持続時間、さらに地形的な条件との組み合わせで影響している可能性がある事例として興味深いです。
「数字」で見えたこと、「まだ見えないこと」
今回の分析を通じて、改めて重要だと気づいたことがあります。
内海アメダスと多尾海岸の距離は約6.5 kmあり、その間には岬もあります。海岸付近の実際の風は、アメダスの観測値とは異なる場合があり、今回使ったデータが海岸のごみ漂着を直接反映しきれていない可能性があります。また、海洋ごみの動きには風だけでなく、潮位・海流・波浪なども関係していると考えられます。他海域での近年の数値シミュレーション研究でも、海洋ごみの漂着には、波浪、潮流、放出源からの距離、海岸線の向き、沿岸地形などが複合的に関与することが示されています[4]。
今回の結果、単純な風速や風向との比較だけでは説明できませんでした。だからこそ、海洋ごみ回収には、現場データ、波浪、潮流、地形などを組み合わせて考える必要があります。今後は、海洋ごみ回収データの記録を続け、これらの要素も含めた複合的な分析に取り組んでいく予定です。
ごみ拾いを「サイエンス」にする
「ごみを拾う」という行為は、誰もが参加できるシンプルな活動です。しかし、その裏側で蓄積データの種類や分析方法を意識する人は多くないかもしれません。
私たちはビーチクリーンのたびに、回収量や参加人数、分別などのデータを記録し、「海洋ごみMAP」アプリにも記録しています。一回一回の活動が単なる清掃で終わるのではなく、未来の回収効率を高めるための研究データとして積み上がっています。今回の気象データとの比較はその一環です。
「どこに、いつ行けば、どれくらいのごみを回収できるか」が予測できるようになれば、ボランティアの労力を最大限に活かすことができます。研究と活動を地道に続けることが、結局は私たちが目指す「海洋ごみゼロ」への近道だと信じています。
ビーチクリーンに参加してみたい方、一緒にこの取り組みを広げたい方は、ぜひご連絡ください。海を守る方法はビーチクリーンへの参加、データ整理、写真記録、気象・海況分析など、関わり方はさまざまです。あなたの一歩が、これからの海を守るデータの一点になります(図4)。

※1
Eを使っても参加人数の影響は完全には消えません。私たちの2年間のデータでは、参加人数が多くなるほどEは下がる傾向が見られました(E(p) = -1.27 ln p + 5.50、R² = 0.51)[1]。これは、人数が増えると1人あたりが拾えるごみが減る、いわば「回収競合」 の効果と考えられます。この点は今後の課題として認識しつつ、今回は回収効率 Eをそのまま用いて気象条件との関係を分析しました。
Eの平均値は2.63 kg/人・h。私たちのフィールドである多尾海岸はごみの多い海岸として知られていますが、限られたボランティアの力でより多くを回収するために、この効率をさらに高めたいと考えています。
[1] 石山 翔午, 中國 正寿, 室谷 雄作, 井上 智晶, 横田 恵美, 江川 裕基. 効率的なごみ回収方法の探索:小豆島の市民参加型ビーチクリーン瀬戸内海研究フォーラム in 香川, (ポスター発表), 香川, 2025年9月8日.
[2] 気象庁. 過去の気象データ検索, https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/index.php,(2025年12月11日閲覧)
[3] 谷本 早紀, 石山 翔午, 室谷 雄作, 井上 智晶, 江川 裕基, 中國 正寿. 海洋ごみの効率的回収に資する気象データの整理の試み, 日本気象学会関西支部第2回例会(四国地区), (口頭発表), 香川, 2025年12月13日.
[4] Hernandez, I.; Castro-Rosero, L. M.; Espino, M.; Alsina, J. M. Processes Controlling the Dispersion and Beaching of Floating Marine Debris in the Barcelona Coastal Region. Front. Mar. Sci. 2025, 11, 1534678. 10.3389/fmars.2024.1534678.