石山 翔午、江川 裕基、井上 智晶、谷本 早紀、中國 正寿
1. 終わらないごみの「流出」と、増え続ける「蓄積」
海洋ごみ問題というと、海洋ごみの大半を占めるプラスチックの使用削減(リデュース)やごみのポイ捨て防止といった新たにごみを出さないための対策がまず想起されます。もちろん、こうした流出抑制は極めて重要です。
一方、プラスチックは食品や日用品の包装、物流、衛生用品など、現代の生活や経済活動に深く組み込まれています。国際比較では、一人当たりGDPが高い国ほど、一人当たりプラスチックごみ発生量が多い傾向が見られます(図1)[1, 2]。このことは、プラスチックの使用が単なる個人の選択にとどまらず、社会の利便性や経済活動と結びついた構造的な問題であることを示しています。ただし、発生したプラスチックがそのまま自然界へ流出するわけではなく、流出量は各国の廃棄物管理の状況に大きく左右されることに留意が必要です。

図1. 一人当たりGDPと一人当たりプラスチックごみ発生量の関係.(Our World in Data [1]、Jambeck et al. [2] のデータを基に作成)。
また、仮に新たな流出を完全に止められたとしても、すでに自然界へ流出し、蓄積してしまったごみが消えるわけではありません。なぜなら海洋ごみ問題は、新たなごみの「流出」と、すでに自然界に存在するごみの「蓄積」が同時に進む二重構造の問題だからです。
OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development)の報告によると、2019年時点で、海洋、河川、湖沼などの水域へのプラスチックごみの流出量は世界で約610万トン/年に上ります[3]。一方、河川や海洋に蓄積したプラスチックごみは2020年時点の約1億5200万トンから、2040年には約3億トンへ倍増する見通しが示されています[4]。追加対策がなければ、自然界に存在するごみの総量は今後も増え続けると考えられます。したがって、海洋ごみ問題の解決には、流出抑制に加えて、水域に蓄積したごみを回収する視点が不可欠です。
2. 景観問題にとどまらない、複合的な環境・健康・経済リスク
海洋ごみの影響は、景観の悪化にとどまりません。日本の海洋へのプラスチック流出量は1.3〜3.1万トン/年と推計されており[5]、世界では約700種の海洋生物で誤食や絡まりなどの影響が報告されています[6]。さらに、プラスチックごみが小さく断片化して生じるマイクロプラスチックによる人の健康への影響も懸念されています[7]。経済面でも、そのコストは世界で60〜190億米ドル規模に及ぶとされており[8]、海洋ごみの主な発生源は陸域にあるとされる一方[2]、その影響は沿岸域の利用や水産業にも及びます。国内でも、例えば、養殖ノリへのプラスチック由来の異物混入や、カキ養殖用パイプ類が海岸に漂着する事例が報告されています[9, 10]。このように、海洋ごみ問題は見た目の問題ではなく、生態系、人の健康、経済に影響が及ぶ可能性のある複合的な課題として捉えられます。
3. なぜ「回収」が重要なのか
海洋ごみ問題において、使い方や流通、制度や設計の見直しによって流出を減らすことは大前提です。しかし、それだけでは、すでに自然界に流出し、蓄積してしまった既存の海洋ごみを減らすことはできません。
一方で、海洋ごみ回収現場での活動は社会的便益が大きいにもかかわらず、収益化しにくく、参加者の「善意」に依存しやすいという課題を抱えています。回収活動が継続しなければ、自然界から取り除かれるごみの量は伸びません。したがって、海洋ごみ問題の解決には、単発の回収にとどまらず、持続可能な「仕組み」に変えていく発想が求められます。
4. 海洋ごみ回収を「善意」から定量化により「証明できる実績」へ
ここで鍵となるのが、ごみの回収を「定量化」するという考え方です。海洋ごみの流出量は年間当たりの重量(kg/年)で語られます。対策の進捗を評価するためには、回収量も年間当たりの重量と同じく kg/年で測定しなければなりません。
現場でごみを拾うだけでなく、分別、計量および記録という一連のプロセスを経て、初めて回収は「証明できる実績」になります。それにより、何をどれだけ回収したかを裏付け、流出量と同じ単位で比較し、社会全体のデータを蓄積していくことができます。単に「たくさん拾った」という感覚的な達成感で終わらせず、どれだけ環境負荷を減らしたかを定量的に示すことで、回収活動が社会的な解決策となるのです。
5. 海洋ごみゼロの世界を実現する方程式
この定量化の先にあるのが、「新たに流出、蓄積するごみの量を上回る量を回収し、自然界に存在するごみの蓄積量を継続的に減らす」という目標です。
最初から自然界にたまっているごみの量をS0、k年目に回収したごみの量をRk、k年目に新たに自然界に流出したごみの量をLkとすると、t年後のごみの蓄積量Stは、次のように表すことができます(図2)。


図2. 回収量と流出量の関係によるごみ蓄積量の変化.
したがって、ごみの蓄積量を理論上ゼロに近づけるためには、次の条件を満たす必要があります。

例えば、ある海岸にはすでに過去から蓄積したごみがあるとします。ある年にそこから100 kgのごみを回収し、同じ年に60 kgのごみが新たに流出したとすると、その年には、過去から蓄積したごみが40 kg分減ったことになります。このような「回収量−流出量」の差を毎年積み重ね、その合計が、すでに自然界にたまっているごみの量を上回れば、海洋ごみゼロを達成できます。
つまり、大切なのは、一回だけたくさん拾うことではありません。「回収量が流出量を上回る状態」を続けることで、その積み重ねで蓄積量を上回ることが必要であり、いかにして社会全体で純減を続けられる仕組みをつくれるかが重要です。
6. 増やす、測る、続ける・広げる:回収に新たな価値を加えた仕組みへ
海洋ごみ問題の解決には、流出を減らす取り組みと、すでに蓄積したごみを回収する取り組みの両方が必要です。私たちは後者、すなわち回収の側から、回収量を増やす、定量化する、継続する、広げるという機能を一体として設計することで、この問題に貢献することを目指しています。私たちが実践する分別回収型ビーチクリーンや河川ごみ回収装置(kawasemi)の開発は、回収量を増やし、その成果を定量化する取り組みです。また、海洋ごみMAPによるごみの回収場所および種類のデータ化は、回収実績を可視化し、活動を広げることに寄与します。さらに、回収ごみの再資源化や、調査・研究・発信による知見と協働者の拡大は、回収を継続し、広げるための基盤となります。このように、海洋ごみ問題の解決には、ごみを「出さない努力」に加えて、「減らす仕組み」を定量的かつ継続的に社会へ実装していく視点が重要です。
私たち、クリーンオーシャンアンサンブルはこれらの活動を通じて海洋ごみの回収量が流出量を上回る状態を社会に実装することを目指し、ごみ回収に新たな価値を加えた仕組みを構築していきます。
参考文献
[1] Our World in Data. Per Capita Plastic Waste vs. GDP per Capita.
https://ourworldindata.org/grapher/per-capita-plastic-waste-vs-gdp-per-capita (閲覧日:2026年5月17日).
[2] Jambeck, J. R.; Geyer, R.; Wilcox, C.; Siegler, T. R.; Perryman, M.; Andrady, A.; Narayan, R.; Law, K. L. Plastic Waste Inputs from Land into the Ocean. Science 2015, 347(6223), 768–771. https://doi.org/10.1126/science.1260352.
[3] OECD, Global Plastics Outlook: Economic Drivers, Environmental Impacts and Policy Options, 2022, https://doi.org/10.1787/de747aef-en
[4] OECD, Policy Scenarios for Eliminating Plastic Pollution by 2040, 2024,
https://doi.org/10.1787/76400890-en
[5] 環境省, 令和6年度検討結果 日本の海洋プラスチックごみ流出量の推計, 2025. https://www.env.go.jp/content/000320690.pdf
[6] Gall, S. C., Thompson, R. C. The Impact of Debris on Marine Life. Mar. Pollut. Bull. 2015, 92 (1−2), 170−179. https://doi.org/10.1016/j.marpolbul.2014.12.041
[7] WHO, Microplastics in drinking-water, 2019,
https://www.who.int/publications/i/item/9789241516198
[8] Deloitte. The Price Tag of Plastic Pollution: An Economic Assessment of River Plastic, Deloitte The Netherlands, 2019.
[9] 藤枝 繁, 佐々木 和也. 発泡スチロール破片の海面養殖のりへの混入問題. 漂着物学会誌, 2004, 2, 9–12.
[10] 藤枝 繁. 瀬戸内海に漂流漂着するカキ養殖用パイプ類の実態. 日本水産学会誌, 2011, 77(1), 23–30.